私はある探偵事務所で助手の仕事をしたことがあります。
なぜ探偵事務所の助手を仕事にしたかというと、元々自分で探偵になりたかったからです。
憧れてたんですね。助手として潜り込んで経験を積めば、必要な実務の力も手に入るのではと。それで求人があった探偵事務所に応募してみたわけです。
最初は電話でコンタクトをとりました。
その時の第一印象は正直「ぶっきらぼうだなあ」という印象でした。
しかし「まあこの業界の人間なんてのはこんなものなんだろうな」とあまり気にはしませんでした。
探偵の仕事に興味があることを強く訴えた履歴書を郵送すると、面接の承諾が得られました。
面接では、助手といっても事務仕事ばかりでなく、一緒に現場に出てもらうが大丈夫かと聞かれました。
事務所での雑務はもちろんありますが、それは助手というより事務のおばちゃんがやってくれるので、私には浮気調査や素行調査、夜の尾行、聞き込み調査に至るまで探偵業務全般を補助してほしい、とのことでした。
興味はあっても実際言われるとホントに自分に出来るのか、と不安になってしまい、正直に答えましたが「もちろん一人で行動するわけではないし、現場では俺の邪魔にならないようにしてくれればいいから。」と言われて一安心。
それなら危険を避けつつ実戦経験も積める、と思い、「お邪魔にならないように頑張ります」と抱負を述べて面接を終えました。
探偵事務所で初仕事
数日後、電話で合格の通知を受け、喜んで初仕事へ。
映画や小説でよく知られている探偵という職業ですが、派手な活躍でヒーローになるフィクションとは違い現実世界の探偵は地道な作業に追われる毎日です。
探偵って現場に出ずっぱりの印象がありましたが、結構事務所内での作業も多いんですね。
尾行調査や浮気調査で撮った写真の整理やクライアントへの報告書の作成、問い合わせや新規依頼者との面談、尾行対象者の写真での面取り(顔を覚える)などで、スタッフが少ないと仕事が回りません。
その事務所は所長一人と、助手が1人、事務のおばちゃんが1人だけの所帯だったので、人手が少なく大変でした。
ターゲットに気付かれないようにひっそりと活動するという点ではスリリングな仕事ですが、地味で目立たない作業をこつこつと積み重ねていくのが日常的な仕事風景です。
2か月ほどは事務所内での仕事を持ち、それから少しずつ現場での補助に出してもらいました。
尾行体験
探偵の仕事の中でも最も地味で忍耐を必要とされる仕事が、ターゲットにピッタリと張り付いて行動を調査する尾行調査です。
尾行調査は探偵の仕事の中で最も基本的な仕事ですが、単純ながら奥の深い仕事です。
尾行の基本は、ターゲットから目を離さず常に監視し続けることです。
一人でずっと監視し続けることは不可能ですから、一般的には二人以上で尾行は行われます。
張り込みでは所長がトイレや所用などで離れる時に監視を変わったり、もっと慣れてきたら、尾行では接近して会話を聞き取りたいときがあるので、連続すると印象に残ってしまい警戒されてしまうため二手に分かれて行動したりしました。
一人が目を離してしまってもバックアップ人員がいればターゲットを補足し続けることができますし、建物内にターゲットが入った時なども内部まで尾行する人間と表で待ち続ける人間の二手に分かれておけば見失うリスクを避けることが可能です。
尾行は徒歩が基本ですが、相手の移動手段によっては車を利用することもあります。
車を利用して移動する相手を同じく車で尾行するのは、徒歩での尾行に比べて数段難易度が高くなります。
同じ車がずっと後をつけてきていたら不審に思われてしまいますが、車は人間のように服装を変えたり変装したりするわけにいきません。
車間距離を取って相手の視界ギリギリの位置から追跡するくらいしか方法はありませんから、高い技術と集中力が無ければ車での尾行調査は困難です。
正直、仕事としてはドキドキの連続ですが、刺激のある業務です。
本格的な訓練を受けて正式に探偵としてやってみないか、と言われましたが、これを生業にして何年も、とは考えられず辞退しました。
その事務所での助手の仕事は辞め別の仕事に移りましたが、他人の人生の生々しい実情に触れられる、刺激のあるあの感じが懐かしくなることがあります。